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広島地方裁判所 昭和45年(ワ)965号 判決

原告 今川澄男

原告 山田忠文

右原告ら訴訟代理人弁護士 高井昭美

被告 三菱重工業株式会社

右代表者代表取締役 牧田与一郎

右訴訟代理人弁護士 酒巻弥三郎

同 中村勝次

右訴訟復代理人弁護士 末国陽夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四五年九月一八日になした原告今川澄男に対する出勤停止五日、および同山田忠文に対する出勤停止三日の各懲戒処分は、いずれも無効であることを確認する。

2  被告は、原告今川澄男に対し金一五万八、七四二円、同山田忠文に対し金一五万五、八一四円をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の申立

本件訴を却下する。

三  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告会社は、航空機、自動車、工作機械その他機械器具の製作、造船、船舶修理を主たる事業とし、横浜、名古屋、神戸、広島、長崎その他各地に事業所を有する株式会社であるが、被告会社の製造する右航空機等のうち相当部分には、自衛隊の使用する多数の兵器、軍用車両等が含まれており、その主たるものとして、自衛隊の主力戦車たる61式戦車の車体および機関をはじめ、60式81ミリ自走迫撃砲、装甲車、各種車両、ナイキハーキュリーズ、F4EJファントム戦闘機、各種ヘリコプター、潜水艦、護衛艦等がある。

2  原告らは、被告会社の事業所の一つである広島精機製作所に勤務する従業員であるとともに、全日本造船機械労働組合三菱重工支部広島精機分会(以下広機分会という)に所属し、昭和四五年当時原告今川澄男は同分会の執行委員長、同山田忠文は書記長であった。

3  被告会社は、昭和四五年九月一八日、原告ら所属の広機分会が同年六月二三日午後一時五五分から二時間にわたって行った争議行為(以下本件ストライキという)がいわゆる政治ストライキであって違法であることを理由に、右ストライキを指導した責任者として、原告今川澄男に対し同年九月一九日から出勤停止五日間、同山田忠文に対し同日から出勤停止三日間とする各懲戒処分に処した。そのため同年一〇月分の給与から、原告今川澄男は出勤停止五日間の給与相当分金八、七四二円の、同山田忠文は出勤停止三日間の給与相当分金五、八一四円の各支給が受けられないこととなった。

4  しかしながら、原告らに対してなされた右各懲戒処分は次のような理由により無効である。

(一) 本件ストライキは次に述べるように労働組合の正当な団体行動権の行使としてなされたものであるから何ら違法ではない。

(1) 原告ら所属の広機分会は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下日米安保条約という)の有効期限の延長、および被告会社が、日米安保条約三条に規定される日本の軍事力を強化する政府の義務に協力して、兵器を製造し、これを売り渡して利潤を得ることに反対するため、「安保反対・三菱の侵略兵器製造抗議」を目的として闘争に入り、昭和四五年六月二〇日、分会規約に基づく全員投票によってストライキ権を確立し、同月二三日午後一時五五分から二時間のストライキを行ったものである。

(2) 日本国憲法は現存する労働者階級が資本家階級と真に対等になるため、階級自体を法制度上否認することを許容し、その手段の一つとして憲法二八条により労働者の団体行動権(ストライキ権)を保障しているのである。広機分会の本件ストライキは直接階級の撤廃を目的として掲げたものではないが、現時点において日本資本主義を存続強化させている一つの重要な制度である日米安保条約の撤廃は、全日本労働者が資本家階級と対等に近づく(すなわち階級差別のなくなる社会主義社会に近づく)ための一つの階梯であるから、これが撤廃を目的として行われた広機分会の本件ストライキは、憲法二八条の団体行動権の行使として正当なものである。

(3) 被告会社の兵器製造は、日米安保条約と密接な繋がりを持つと同時に、それ自体我が国を戦争にまき込む危険がある。すなわち、周囲に経済発展の遅れた諸国があるところ、国内においては、急激に成長した経済を抱えて原料市場、製品販売市場、資本の投下先の確保に血眼となっている大資本家階級が存在していることからして、戦争がおこれば、それは必然的に侵略戦争たらざるを得ず、被告会社の製造する兵器もまたそれに利用されることになる。日本が侵略戦争を開始した場合、日本の労働者とその家族は戦争の外で安穏とすることはできず、それは労働者の労働条件どころか、労働者の生存条件をも奪うこととなる。

さらに、兵器の生産は、それに携わる労働者に対し、その不適格者とみなされた者の配置転換、首切りを強制し、思想信条の自由の侵害、プライバシーの侵害をもたらし、さらに職場における種々の労働条件や安全衛生環境等の低下をもたらすとともに、労働組合の諸活動を低迷させることにもなるのである。したがってこのような事態の招来を事前に阻止することを目的とした本件ストライキは正当である。

(二) 仮に本件ストライキが違法であるとしても、後述のように、原告らが単に組合幹部であるという理由で当然個人的懲戒責任を負うべきいわれはなく、本件懲戒処分は、原告らが組合の役職にあることを嫌悪して差別的になされた不当労働行為に該当する。

(1) 懲戒は、個別的労働関係において、遵守が期待される就業規則ないし服務規律違反について個別的労働関係の主体たる地位においてその責任を問うものであるから、集団的労働関係にある労働組合の活動に参加した組合員の行為は、それが正当な組合活動であればもちろん、たとえ団体として違法な行為であっても労働組合の行為として不可欠なものと認められる限り、これを組合員個人の行為として個人に対し懲戒責任は問い得ない。

(2) 争議行為は、集団的性質が強く、しかも使用者の労務支配から組合員が離脱することによって初めて成立するものであるから、服務規律によって企業秩序の確立する基礎自体が失なわれているのであり、たとえそれが団体的に違法であるとしても組合員個人に対し服務規律違反を理由とする懲戒権の行使は許されない。

(3) 法律上の責任は自己のなした違法な行為について生じるのが近代法における基本原則(行為者責任、自己責任の原則)であり、法律上特別の規定が存しないかぎり他人の行為について当然に責任を負うべき理由はないところ、このことは懲戒責任についてもいえるのであって、労働組合の役員なるが故に組合員の行ったすべての行為について当然に懲戒責任を負わねばならないとする法律上の根拠は見当らない。

(三) 仮に右主張が理由がないとしても、本件ストライキを指導したという理由で原告らを懲戒解雇に次ぐ重い処分である出勤停止に処したことは、終身雇用制をとるわが国の雇用状況からして、その不利益が回復し難い損害として拡大していくことに鑑みれば、不当に重い処分であるので懲戒権の濫用というべきである。

(四) また、被告会社においては、過去幾多の政治ストが行われたにもかかわらず、その責任を追及したことがなかったところ、本件ストライキはこれまでのストライキと比較して著しく小人数によってなされたものであるのに、これをとらえて被告会社が行った本件懲戒処分は、このような労使間の永年の慣行を無視したもので信義誠実の原則に反すると言わねばならない。

5  被告が原告らに対して右のように無効な本件懲戒処分を強行したため、原告らは精神的苦痛を被ったのであるが、その慰藉料としてはそれぞれ五〇万円が相当である。よって、原告らは、被告の原告らに対する右出勤停止処分が無効であることの確認を求めるとともに、被告に対し、原告今川澄男は、右出勤停止処分によって控除された賃金八、七四二円と慰藉料五〇万円のうち一五万円の合計一五万八、七四二円、同山田忠文は右出勤停止処分によって控除された賃金五、八一四円と慰藉料五〇万円のうち一五万円の合計一五万五、八一四円の支払をそれぞれ求める。

二  本案前の抗弁

本件訴は過去の処分の無効確認を求めるものであるから、訴の利益がない。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、被告が、61式戦車の車体および機関、潜水艦、航空機等を製造することを一部の目的とし、横浜、名古屋、神戸、広島その他に事業所を有する株式会社であることは認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、本件懲戒処分によって控除された原告らの賃金の額は争うが、その余の事実は認める。

原告らの控除された賃金の額は、原告今川澄男につき、八、八八五円、同山田忠文につき五、九七〇円である。

4  同4のうち、本件ストライキが安保反対、三菱の侵略兵器製造抗議を目的として行われたことは認めるが、その余の主張事実は争う。

四  被告の主張

1  本件ストライキの違法性およびその影響

(一) 本件ストライキは、「安保反対、三菱の侵略兵器生産抗議」を争議の目的としたものであるが、「安保反対」というが如き行動は、わが国政府、国会に対する政治的意思表明を目的とするものに外ならず、国家の政策の変更を求める政治的活動である。更に、「三菱の侵略兵器生産抗議」という事項についても、広機分会の所属している全日本造船機械労働組合三菱重工支部(以下、三菱支部という)と被告会社との労働協約によれば、同第一条「交渉の原則」に反し、被告会社広島精機製作所と同分会との協議交渉事項となり得ないものである。のみならず、右争議は、同分会の見解に徴すると、安保粉砕を究極の目的とする政治闘争の一環として行われたものであるというのであり、このことは結局、国家政策に対する政治的意思表明にほかならない。

すなわち、本件ストライキは、純粋な政治活動を目的としたものであって、労働者の経済的地位、労働条件の維持向上に直接関係がないうえに、被告会社として直接かつ具体的に、法律的にも事実的にも処理し得ない国家に対する政治的主張の貫徹を狙ったものであるから、法の保護を受け得ない違法な争議行為である。

(二) 原告らは、広機分会の執行委員長、書記長という地位にあって、同分会の最高責任者であり、被告との協議交渉の窓口当事者でありながら、安保反対という政治的課題を唯一の目的とする違法な本件ストライキを企画し、その実施にいたるまでの広機分会各級機関における決議に参加し、組合員を積極的に指導するとともに、広機分会の唯一の上部団体である三菱支部の決定および指示指導に従わなかったばかりか、会社の再度にわたる政治ストライキ中止の要請および責任追求の警告を無視し、自ら率先して広機分会員を指揮し、昭和四五年六月二三日午後一時五五分から午後三時五五分まで所定の労働時間内約二時間にわたってストライキを決行した。

(三) その結果、ストライキ参加者に予定していた工事が停滞したばかりか、当日出図予定の設計図面が完成せず代替もできなかったため、その後の材料手配、機械加工、製品組立が遅延し、当日完了予定の機械加工部品については、急遽他の作業者に長時間残業を命じて消化させ次工程に送りようやく事なきを得た状況であった。また、その後もストライキ参加者に予定していた作業を外注に振りかえざるを得ないような事態が生じ、現実に被告会社の生産阻害、混乱を惹き起した。また、被告会社の警告を無視した本件違法ストライキによる所定労働時間中の集団無断職場離脱という行為、更には原告ら自ら拡声器を使用しての会社構内あるいは門前での「会社は政治弾圧、処分の恫喝等の不当介入を行っている。」旨の被告会社誹謗のアジ演説、立看板、ビラ配付等の行為は、職場秩序を全く否定した行為であるばかりか、積極的にこれを破壊しようとするものであり、同僚、一般社員に与えた精神的動揺は、はかりしれないものがあった。

2  原告らに対する懲戒条項の適用

原告らの行った本件ストライキは、被告会社の社員就業規則六四条一項五号「正当な理由なしに業務命令もしくは上長の指示に反抗し、または職場の秩序をみだしたとき」、同条同項一五号「その他前各号に準ずる程度の特に不都合な行為があったとき」、同六三条三号「正当な理由なしに労働時間中みだりに職場を離れたとき」、同条一四号「その他この規則によって順守すべき事項に違反し、または前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき」にそれぞれ該当する。

ところで、同規則六四条一項各号は、いずれも懲戒解雇の適用条項であるが、同条一項ただし書および同規則六二条二項によれば、「情状酌量の余地があると認められるときは、出勤停止又は減給にとどめ、」あるいは「退職を勧告し諭旨退職にとどめることがある」ものとされている。また同規則六三条各号は、いずれもけん責の適用条項であるが、同条ただし書によれば「情状によっては、減給、出勤停止とすることがある」となっていて、処分の決定にあたっては、本人の行為の内容、程度、背景をなす事情、累犯の状況、改悛の程度(今後の見込み)、過去の処分例等を総合勘案して決めるものである。しかして、原告らについては、その行為の内容、程度も重く、改悛の見込みもなく、背景をなす事情も、上部団体である三菱支部の決定および指示指導に違反して同支部傘下五分会の中で広機分会のみを暴走させたこと等を総合して勘案すると、懲戒解雇が相当とも考えられたが、原告らにはこれまで懲戒処分の前歴がなかったことを有利な情状として特に考慮し、原告らに対し反省の機会を与えるべく、本件各懲戒処分にとどめたものである。

第三証拠《省略》

理由

一  本案前の抗弁について

原告らの求める本件各懲戒処分(出勤停止処分)の無効確認の訴は外形的には過去の法律関係の存否の確認を求めるものであるけれども、現在の権利または法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえって、それらの権利または法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが、現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合には、過去の法律関係の存否の確認を求める訴であっても確認の利益があると解すべきところ、《証拠省略》を総合すれば、原告らは、本件出勤停止処分により、出勤停止期間中賃金の支給を受け得なかったのはもちろん、一年後の昇給期における昇給額が一般より減額されていること、そのため爾後の給与、賞与等にも不利益な影響を受けたこと、さらに、被告会社は人事体系に職群等級制度を採用し等級間で給与に差を設けているが、原告らは本件出勤停止処分を受けたことによって進級につき不利益を蒙ったことがそれぞれ認められるから、原告らは、右のような不利益を免れるため、本件出勤停止処分が無効であること(裏をかえせば、かような懲戒処分を受けていない従業員としての地位)の確認を求めるにつき法律上の利益を有するものと解すべきである。よって、被告の本案前の抗弁は理由がない。

二  本案について

1  原告らが広機分会に所属し、原告今川澄男は同分会の執行委員長、同山田忠文は同分会の書記長であったこと、昭和四五年六月二三日、広機分会が「安保反対・三菱の侵略兵器製造抗議」を目的として就業時間中の午後一時五五分から二時間にわたるストライキを行ったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すれば、本件ストライキを決行するに至った経緯として次のような事情が認められる。

(一)  広機分会は、日米安保条約の期限満了日(昭和四五年六月二三日)がせまったことに対応して、「はぐるま速報版」と題する機関紙によって、同年四月二八日ころより日米安保条約の自動延長に反対する旨表明し、組合員に対し反対闘争の呼びかけを行っていたものであるが、同年六月一八日には、全国の反対闘争に呼応して同月二三日にストライキを行う旨表明し、同月二〇日、「安保反対・三菱の侵略兵器製造抗議」のためのストライキ権を確立した。原告今川澄男は、闘争委員長として、同日午後七時三〇分付で分会闘争指令第一号を発令して、同分会員に対し以後闘争体制に切り換える旨指示する一方、同月二二日、同分会を代表して被告会社に対し、「三菱重工侵略兵器生産について」を議題とする団体交渉開催の申入れをなし、右申入れを拒否されるや同月二三日午前八時付で同指令第二号を発令して本件ストライキの決行を指令し、同日の昼休み時間中には、原告山田忠文を司会者として、会社構内の食堂前で集会を開き、本件ストライキの参加を呼びかけてこれが実行を現実に指導した。これに対して、被告会社は同日午前八時三〇分ころ、広機分会に対し、本件ストライキは違法であるから中止するよう申し入れたが、原告らは、この警告を無視して本件ストライキを決行した。

(二)  なお、同分会の上部団体である三菱支部は、同日に行うべき反安保闘争について、全日本造船機械労働組合本部の指示に基づき、時間外集会に止めるよう同分会に対し指導したが、同分会はこれに従わず、独自の判断で本件ストライキを決行した。

(三)  しかして、本件ストライキは、「安保反対」を目的とするほかに、「三菱の侵略兵器製造抗議」をも目的として行われたものであるが、同分会は、「三菱の侵略兵器製造」が日米安保条約を維持し日本帝国主義の侵略戦争を助長するものと位置づけ、「三菱の侵略兵器製造抗議」という事項を、日米安保条約の粉砕を究極の目的とする政治闘争の一環として掲げたものであった。

以上の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  そこで、本件ストライキが正当な権利の行使として適法なものであったか否かについて検討する。

(一)  《証拠省略》によれば、被告会社と広機分会の上部団体である三菱支部との間には、昭和四四年六月一日労働協約が締結され、右協約第一条には会社と組合との協議交渉事項が定められているところ、これによれば、広機分会が本件ストライキの目的とした日米安保条約は勿論、被告会社の兵器生産の当否についても、被告会社広島精機製作所と右分会との協議交渉事項とはなり得なかったものであることが認められる。

(二)  ところで、憲法二八条が労働者に団体行動権を認めた趣旨は、個々的には使用者に比し著しく弱い立場にある労働者が、労働条件等使用者に対する主張、要求事項に関して使用者と交渉するに際し、使用者と対等の立場に立つことを可能ならしめるべく、労使の力の均衡を図ったものと解するのを相当とするところ、「安保反対・三菱の侵略兵器製造抗議」を目的とした本件ストライキは、使用者に対する主張、要求を本来の内容とせず、使用者において処理し得ないような政府に対する政治上の主張、要求を内容として争議行為、特に就労拒否をしたのであるから、それは少なくとも使用者に対する関係において憲法二八条の保障する争議行為としての正当性の限界をこえるものと言わざるを得ない。日本国憲法、特に憲法二八条の解釈に関する原告らの主張は独自の見解であって到底これを採用できない。

3  次に、《証拠省略》によれば、被告会社は、社員就業規則を設け、その第一二章において社員に対する懲戒につき定めていることが認められるところ、これによれば、原告らの行為は、少なくとも同規則六四条一項五号「正当な理由なしに業務命令もしくは上長の指示に反抗し、または職場の秩序をみだしたとき」、同六三条三号「正当な理由なしに労働時間中みだりに職場を離れたとき」に各該当するものとして懲戒の対象となると言わねばならない。

4  なお、原告らは、組合幹部なるが故に原告ら個人が当然に広機分会(団体)の行った本件ストライキにつき懲戒責任を負うべき根拠はない旨主張するところ、個々の組合員が組合としての争議行為に入ると、いわゆる集団的労働関係が生ずるが、その場合においても、個別的労働関係が解消されるわけではなく、当該争議行為が違法であり、かつ右争議行為について組合員個人の責任が認められる場合には、なおそのことを理由として、組合員に対して個別的労働関係上の責任を追及し、違法な争議行為を構成した組合員の個々の行動につき、就業規則の懲戒規定を適用することは差支えなく、しかも前記各認定事実によれば、本件において、原告らは、広機分会の役員であることから直ちに懲戒責任を問われたものではなく、同分会の執行委員長、および書記長として、率先して本件ストライキを企画、指導、指揮し、自ら実行した所為が他の組合員に比較して情が重いということを理由として、本件懲戒責任を問われたこと明白である。

してみると、本件懲戒処分は、広機分会の違法な争議行為につき、原告ら個人が果した行為に具体的に着目してその責任を追及してなされたものであり、かつ、右処分につき被告会社が原告ら二名を差別的に取扱う意思を有していたものと認めるべき証拠もないから、この点に関する原告らの主張は失当である。

5  さらに、原告らは、本件懲戒処分は、不当に重く権利の濫用であり、また、労使間の永年の慣行を無視したもので信義誠実の原則に反する旨主張するところ、前認定の本件ストライキの経過、態様、原告らの果した役割等から判断すると、原告今川澄男に対して出勤停止五日、同山田忠文に対して出勤停止三日に処した本件懲戒処分はこれによって原告らが受けるべき主張のような不利益の点を考慮しても、これを無効と解さねばならない程不当に重いものとは認められず、また、《証拠省略》によると、なるほど、被告会社においては過去数回にわたっていわゆる政治ストが行われたにもかかわらず、一度もその責任者を懲戒処分に処したことはなかったことが認められるが、他方、《証拠省略》によれば、被告会社は右の各ストライキの都度組合に対し抗議を行い、いわゆる政治ストを容認する態度をとってはいなかったことが認められるから、原告ら主張のごとき労使慣行が確立していたとは認めがたいところである。

6  以上のとおり、原告ら主張の無効事由はいずれもこれを認めることはできない以上、本件懲戒処分の無効を前提とする原告らのその余の請求(控除賃金および慰藉料の請求)もまた理由がないものと言わねばならない。

三  よって、原告らの本訴請求はすべて失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 植杉豊 裁判官 大谷禎男 川久保政徳)

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